同性間パートナーシップの法的保障に関する当事者ニーズ調査
は、2004年2月末から5月10日に行われました。
回答結果の集計はPDFをご覧ください。
簡易版(16ページ) 集計詳細(36ページ)
考察~議論のために~
『考察』とは、わたしたちが「同性間パートナーシップの法的保障に関する当事者ニ-ズ調査」を行った過程とその結果について考え、議論していることの一部です。今後、この分野でさらなる検討が行われることを願って公開します。
(1)パートナーシップへの同意・不同意
今回の調査は2月28日から5月10日までの約70日間で行われました。回答総数は683。わたしたちのけして十分とはいえない宣伝活動を考えると、多くの方にあたたかく受け入れていただいたことに感謝申し上げます。
一方、調査プロジェクトメンバーに対し、個人的に「調査に協力できない」と伝えて下さった方々が少なからずおられたことを記しておきたいと思います。自分は同性のパートナーを持つ、あるいは持つ可能性はあるが、パートナーシップという考え方を元に人生を考慮したくない、このような調査が、現在のパートナーシップ単位(婚姻や血縁家族単位)の社会保障制度を助長する方向で利用されないとは限らない、同性婚には反対だ、だから、今回の調査には協力しない、という方々がおられました。調査に回答するかわりに、わたしたちに当事者のニーズの多様性の別の側面を伝えようとして下さった、683人に入らなかった方々にも感謝申し上げます。
折しも、諸外国では同性婚やパートナーシップ法などの制度ができつつあります。日本でも同様の制度を求める声があります。その際に日本の戸籍制度、婚姻制度や家族制度(法的にも社会慣習的にも)の諸外国との違いを無視することはできないでしょう。こうした環境によって、調査に反対する立場の意見も形作られてきたのだと考えます。この方々の意見もまた当事者のニーズであると考えます。
そもそも調査に協力し回答を寄せて下さった方々は、パ-トナ-シップ単位の保障に肯定的な意見の方が多い可能性があるということを前提に結果をご覧下さい。社会的保障は望むけれど、家族やパートナーシップを作り、それを単位として保証されること自体への同意や不同意、様々な立場が調査結果の背景にあること、それは実際に調査を担当したわたしたちにしか伝えられないことであるため、結果の報告に当たっては今後もまず最初にこの点に触れる責任があると考えています。
(2)対象者の多様性
今回の調査は、「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの自覚をもつ当事者向けにおこなう」としていました。けれど、これらの対象設定には問題がありました。「同性間パートナーシップの法的保障のニーズ調査」で、当事者のニーズを知りたいと考えたとき、自分のことを「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシュアル」と思っている人たちだけでは、ニーズを持っている可能性のある多くの人たちが漏れていると考えられます。自分自身の性的指向をカテゴライズされることを拒否している人や、これら3つのカテゴリーに入らない人たちです。その他にも「同性間パートナー」とすると、「法律上の同性」なのか「性自認からみた同性なのか」が不明確で、性別違和を持つ人々を考慮に入れていない印象がして回答協力に躊躇するという声もお聞きしました。
例えば、FTM(法律上の性別:女性)のパートナーが法律上の女性で性自認も女性の場合、そのふたりのアイデンティティはヘテロセクシャルとなることもあります。反対に、MTFレズビアン(法律上の性別:男性)が法律上の女性をパートナーとした場合、自分自身が法律上の性別を変えなければ婚姻が可能です。けれど、自分の法律上の性別を変更したいと考えているかもしれません。そうすると、やはり社会的な保障を得ることは難しくなります。
これらカテゴライズや性的指向をアイデンティファイする問題、そして「同性」の曖昧さは当初から視野に入っていたものの、十分に検討しないまま実施にいたったことは、調査の広がりを妨げたかもしれません。
さらに、対象者の多様性は性自認や性的指向によるものだけではありません。国籍、人種、民族の違いがあり、それらによって社会から受けている法的保障は異なります。今回の調査では、外国籍の人のビザ問題などを考慮した項目を設定できていませんでした。また、自由回答では、「障害者」が視野に入っていないように思う、というご指摘もいただきました。このように、同性間パートナーシップの法的保障に関する「当事者」は実に多様だということを、わたしたちは改めて確認しました。
(3)どのような保障を希望しているか~権利と義務~
同性間のパ-トナ-シップあるいは関係の保障のためにどんな内容を望むかをきいた問12は、現在の婚姻関係が持つ保障内容を参考にしたものでした。回答結果をみると、「異性間と同じ婚姻制度を同性間にも認める」と答えた人のなかでも、「同一の氏を名のる義務」や「相互扶助の義務」「同居の義務」を望む声には、ばらつきがありました。「同姓」や「同居の義務」は、異性間の関係においても支持を得られにくくなってきています(夫婦別姓など)。これらの項目は異性間の婚姻においてもまだ必要なものでしょうか。同性間のニーズは、同性間の力関係が異性間より不均衡でないと思われていることや、時代の変化を反映したものなのでしょうか。
一方でaからiの諸権利に対しては、おおむね必要という回答が多いなか、際立っていたのが「看護・面接権」「医療上の同意権」でした。この2項目は他の項目に比べて回答にばらつきがなく、9割が「必要」と答えています。また利用度においても同様に、他の項目に比べ「利用する」とする人が多い傾向にありました。(政策研ではこうした調査結果に注目し、現在、有志による『医療プロジェクト』が発足し、活動を始めています。)
前述したように、現行のパートナーシップの法的保障が婚姻に認めているものが基準になる以上、権利をつき詰めていけば婚姻(同性婚)の実現か、あるいはパートナーシップでの保障を解消し個人単位の社会保障制度か、と検討することにもつながるでしょう。あるいは婚姻の効力の減弱化が進むかも知れません。現状の婚姻が持っている保障以外になにを求めることができ得るか、想像できますか。何を求め、何を負うことを法的に保証されたいのか、具体的な議論を深めたいと思います。同性間パートナーシップの法的保障を求めるにあたっては、求めるものは現行の婚姻を意味するのか、現在の婚姻制度についてよく理解した上で、異性間の多様な関係を目指す人たちとも共通の議論が求められます。
(4)LGBTが、子を持つこと/育てること
まず、質問の意図を述べ、次に、結果の分析をします。
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)にとって、婚姻制度を経由せずに、子を持つにはどのような方法があるのでしょうか。まず、(普通)養子縁組制度は、民法に明文にて、非婚の者への適応を禁じているわけではありません。しかし、運用の場面でほとんど門前払いされているのが実情です。また、生殖補助技術へのアクセスも周知の通り、夫婦以外へは、適応されていません。つまり、LGBTは、日本では子を持つ手段から隔絶されてきたのです。子を持つ/育てることについて、具体的情報からも遠ざけられ、思考する機会が奪われています。にもかかわらず、このような質問項目を設定したのは、以下のような意図があります。
再三触れてきましたように、昨今の欧米での、「同性婚」もしくはそれに準じる制度の制定の早さ・広がりは、善し悪しは別に、刮目すべき事態です。しかし、その際、しばしばあとまわしにされるもののひとつに、養子縁組制度があります。すなわち、「同性婚」は認めるが、LGBTによる子育ては認めない、という施政側の姿勢は、同性婚が論じられる過程でほぼ共通して見られます。
これは、何を意味するのでしょうか?
要するに、「同性愛者にも、『結婚』の権利は認めるが、それらに育てられた子が、学校や地域で差別されないとも限らないので、公的にそれを認めるわけにはいかない」というのが、理由でしょう(いわゆる「子の福祉」)。しかし、これは、問題のすりかえであり、子の幸不幸は、親の社会的立場とは、無関係とは言わないまでも、不可分ではありません。「子がかわいそう」という言説を作っているのは、実は、親に付与している社会のスティグマであることは、「両親共働の鍵っ子はかわいそう」、「離婚による『欠損』家庭の子はかわいそう」、「親の勝手で非嫡出子になった子はかわいそう」等の言説からも、推測できるではありませんか。「同性婚」を認めながら、養子縁組や生殖補助医療へのアクセス権を認めないのは矛盾しているということは、もっと論じられてもいいと考えます。
【15】~【17】の問いは、以上のような課題に、質問の形を通して、回答者に気づいてもらう、という意図が半ばありました。すなわち、自分自身が子を育てたいかどうかと、権利として認めるべきかどうかを、峻別して、考えよう、ということ、また、自分自身の子育て観に、ホモフォビアが影響していないか、点検してみる機会にしてもらえたら、と、いう思いがありました。
では、結果の分析に移りましょう。
養子縁組制度の必要度について見てみますと、「どちらとも言えない」が、最も多く31.9%でした。これは、精子バンク等の必要度についても、同様で、「どちらとも言えない」が最も多く、33.7%でした。一方、自分自身、利用するかどうか、の、質問に対しても、わからないが、最も多く、42.2%(養子縁組)、35.6%(精子バンク等)でした。このような回答パターンとなった他の質問項目としては、「貞操の義務」、「同居の義務」があります。これらの項目については、非常にばらつきが大きかった、ということになります。ただ、意見が分かれた理由は、貞操・同居とは異なるかもしれません。すなわち、次世代に関わることなので、慎重に考えざるを得ない、考えるための情報や機会があまりにも限られているので、判断を保留にしたい、という含みがあると想像されます。
養子縁組を利用したいとの回答が17.4%であったのに対して、精子バンク等を利用して子を持ちたいとの回答は、13.6%に留まり、利用しないが42.8%にものぼっています。養子縁組と精子バンク等への希望を比較するかぎりにおいて、血縁へのこだわりは強くはない、あるいは、生殖補助技術へのアクセスについて、決して積極的ではない、と、読み取れます。
子が差別を受けることに関して、非常に危惧を持っていることも、示されました。すなわち、「差別される可能性が非常に高いと思う」は、32.9%、「他の子どもたちが他のことで差別を受け、危険にさらされるより、可能性は高いと思う 」が、34.3%で、両者をあわせると、67.2%でした。
これらの危惧があることと、自分自身が、子を持つことに関して、どのような思いを持っているかについての、相関関係を、【問17】で問いたかったのですが、質問文の不整備のためもあり、必ずしも有効な回答が寄せられなかったことは、反省材料のひとつです。
例えば、子を持つことを躊躇するのは、子が差別される可能性を憂慮しての逡巡なのか、その他の理由に因るものなのか、一端でも知り得たらと思い、問うてみたのです。正直に言って、【問17】は失敗だったと言わざるをえませんが、今後、質問方法等を改善させて、ホモフォビアと、「親」になることとの相関について、検討を続けたいと考えています。
(5)社会保障のヒエラルキー
【問13】の回答結果をご覧ください。あなたはこれを見てどう感じますか? 回答した人たちは同性婚制度を最も強く望んでいる、と結論づけますか? 私たちが考えたのは次のようなことです。…同性婚が最も‘尊く’DP法はそれより劣るという考えが、当事者のなかにあるのでしょうか? わたしたち自身のなかにも?…回答項目の1から7はおそらく、異性愛者の関係を保証する社会制度の‘強さ’に対応しています。そんな制度の強固さは、同性の関係を異性間のそれより下位に置くヒエラルキーと通底しているように見えます。調査と平行して行っていた政策研月例会で、レズビアン・マザー、ゲイ・ファーザーの子育てに関して行われた発達心理学的研究のレビュー論文で、ヘテロセクシュアルの親の子育てをより質の高いものであると暗黙に前提してしまう「ヒエラルキーモデル」が研究者自身のなかにも潜在しているのではないか、と指摘した論文が紹介されました。(Stacey,J.& Biblarz,T.,J.,2001"(How) does the sexual orientation of parents matter?"American Sociological Review ; vol.66 pp.159-183)
1婚姻、2事実婚、3まだ誰も知らない新しい関係法規、4既存の二者間契約、5複数人での契約、6個人単位での保障、そして、7制度は要らない…という順位。この順番に回答項目を並べたことで、何らかの誘導になってはいないかを考えなければならないでしょう。
またこの調査の対象にはなっていない異性間の関係を生きる人たちにとっても、婚姻によらない関係を生きる不自由さにおいては共通する面があると思われます。異性間で婚姻によらない関係をもっている人たちがこれまでに社会保障を求めてきた方法の多様さから、同性間パートナーシップの保障についても学ぶことがあるかも知れません。どの回答を選ぶか、どんな制度を望むか、どんなライフスタイルをし、どんな生き方をするのか、を考える時、すでに社会にある優位な生き方(制度)の方にLGBTIなど性的少数者を無意識に合わせていないか? と、問い直すきっかけとしてこの種の調査が役立つこともあるでしょう。実際にそのような思いを自由回答として寄せてくださった方々もいました。
しかしこうしたヒエラルキーのなかにあって、同性間パートナーシップはまったく何の法的保障もされていません。現実を無視されニーズがまったくかなえられない情況が続けば、ますますヒエラルキーの上位にある制度へのニーズがかきたてられるということはないでしょうか。
【問14】「あなたは将来同性間のパートナーシップを保証する新しい制度ができたら、利用したいと思いますか?」に対して、72.6%にあたる人が「思う」と答えています。わたしたちの結論は、どのような制度にしろ制度から疎外されていることの弊害ははかり知れず、なんらかの法的保障が求められていることが明らかだ、ということです。またその新たな制度が実施される時、子どもをもつ/育てる権利と義務を私たちは求めるのでしょうか、社会は私たちに保障するでしょうか。
(6)まとめ~ニーズ調査から得たもの
同性間パートナーシップの保障について、どのような制度を作り得るでしょうか?
インタ-ネットの普及とともに、情報は世界を駆け巡り、国によって同性間パートナーシップに法的保障がなされることを、誰もが知ることのできる時代をむかえています。また近年、目覚ましく進歩した生殖補助技術によって、ホモセクシャルの人々にとっても子を持つ選択肢が増えています。同時に、親になること/子をもつことの倫理が問い直されてもきています。2003年には日本で「性同一性障害者への性別の取り扱いの特例に関する法律」が生まれ、出生時の戸籍上「同性」であった人同士が、後に一方が「異性」へと性別を改め、「結婚」することが実現することになりました。しかしすでに婚姻を結んでいる人や、子どもがいる人が特例を受けると、「同性婚」や「両親が同性である」状況を法的に実現させることになり、これは時期尚早として対象から外されました。
今後、新たな制度を作る時、その対象は何ら社会的保障を得られない関係を生きてきた多様な人たち全体である、と私たちはこの調査の経験から考えます。今までにはない新たな制度を作るということは、これまで行われてきたような「特定のライフスタイルをとる場合にだけ保障される」のとは違う社会制度を考えることになるだろうということです。親子および夫婦などの家族、すなわち既に社会的に保証されてきた関係も、また同性間パートナーシップやシングルなど、ますますひろがっていくであろう関係も、すべて等しく「これからの時代に本当に必要な社会保障とは」という視点で問い直す必要があるでしょう。
日本という社会のなかで生きる者として、法や制度の限界を踏まえながら、なお、私たちは新たな制度と社会保障を求めて発言していく重要性を確認し、考え続けるためのエネルギーを得て、調査を終えることができました。ようやく同性間パートナーシップの法的保障に関わって、「自分自身がどう生きたいか」のみならず、「生きやすさを権利として認めあい、それを社会保障の形で個人が実感できる政策をどう求めていくか」を議論する時期がきています。多くの方々に、ともに議論していただけることを願っています。
2004年8月
「血縁と婚姻を越えた関係に関する政策提言研究会」有志
ニーズ調査プロジェクト
報告:2004年8月1日に行われたイベント「同性パートナーを考える」で、
「同性間パートナーシップの法的保障についての当事者ニーズ調査」の報告をいたしました。